【本の感想 #5】もがいて、もがいて、古生物学者!!
今回紹介する本は
『もがいて、もがいて、古生物学者!!ーみんなが恐竜は博士になれるわけじゃないからー』
本書の内容
本書は、恐竜博士にあこがれた少女が、人生の岐路で迷い、決断し、哺乳類化石の古生物学者となるまでのストーリーがつづられています。著者は国立科学博物館の古生物学者で、自身のこれまでの体験が語られています。
書誌情報
出版社:ブックマン社
ページ数:312
2020年8月13日発行
ソフトカバー
著者:木村 由莉
国立科学博物館地学研究部研究員。早稲田大学教育学部卒業、米国サザンメソジスト大学地球科学科で博士号取得。陸棲哺乳類化石を専門とし、小さな哺乳類の進化史と古生態の研究を行う。(本書著者紹介より抜粋)
目次
第0章 古生物学者になりました
第1章 きょうりゅうはかせになりたい
第2章 恐竜にみちびかれて
第4章 いざ研究入門
第5章 恐竜は憧れのままで
第6章 片道切符で、アメリカの大学院を目指す
第7章 ジェイコブス研究室へようこそ
第8章 研究、始まる
第9章 ヒトはなぜか化石を研究するのか
第10章 その化石、私に研究させてください!
第11章 自分のモノサシ、進化のモノサシ
(本書目次より)
感想
前回の記事(下記リンク)では国立科学博物館の動物学者の方の本について書きましたが、今回は同博物館の古生物学者の木村由莉さんが書かれた本です。
だれしも子供のころ、あこがれの職業を見つけ「自分もそうなりたい」と心に決める瞬間があると思います。
大人になるにつれ、その夢を叶えるために必要なことが分かり、同じ道を目指す人たちと触れ合う中で、夢をあきらめてしまいがち。
本書の主人公は、幼いころに手に取った化石と『ジュラシックパーク』から恐竜博士になることを夢に抱き、紆余曲折をへて化石哺乳類の研究者として成長していきます。
著者の経歴を見ると、私などからすれば、とても煌びやかなアカデミアの道を歩んでいるように思えたのですが、本書を読んでいくとその道のりでとても努力されたんだなと教わります。
本書によれば研究者になるための「王道」は大学進学後、大学院で博士号取得ののち、数年のポスドク(参考:ポスドク)をへて、数少ない研究職を勝ち取るというもの。
著者はそうした研究者への道のりの中で、参加した化石発掘や同じ道を目指す学友たちの影響もあり、哺乳類化石の研究に取り組むことになります。
個人的に印象深かったのは、進路の要所要所で非常に良く考えを巡らせ、決断されているところです。
自分が納得できる判断を選び、決断よくチャレンジしている様子がうかがえます。
また、本書では古生物学者になるための進路アドバイスについても書かれており、小学生~大学生までの各時期でどんなことをすればいいのか(留学も含め)、著者の私見が述べられています。
この点は、あまり描かれたことがない話題なので、将来化石の研究者になりたい人に参考になるのではないでしょうか。
研究者になるためにはいろんな道があることを本書で語られています。
著者もそうであったように、大事なのは最終的に研究を続けたいという意志と、それに必要なことを考え続けていくことなのかなと思いました。
でも、知っておいてほしいのは、1メートル先の針の穴の糸を通すような、狙い定めた道を進むことだけが夢じゃないということ。自分がいる場所がたとえ理想の道とは違っていても、そこから自分の意志で少し軌道修正してみる、そのプロセスごと「夢を叶えること」と思うことが大切だと思う。
(本書 p. 86)
ロールプレイングゲーム(RPG)の不朽の名作「ドラゴンクエスト」では「けいけんち」を稼いで「レベルアップ」してきます。
本書を読むと研究者の道も同じで、著者も行く先々で経験を積んで研究者としてのレベルが上がっていく感じがあり、いわばアカデミックRPGの主人公のよう。
現在同じように研究の世界で頑張っている若手の方々も共感できそうな内容です。
著者によって今後どんな研究が展開されていくのか楽しみです。
合わせて読みたい
『フタバスズキリュウ もう一つの物語』
同じく女性古生物学者の佐藤たまきさんが、首長竜の研究者となり「フタバスズキリュウ」を 研究するまでのストーリーです。