自然史の本棚

自然史系の本の感想、昆虫観察、博物館めぐりのブログ

【本の感想 #11】恐竜の教科書 最新研究で読み解く進化の謎

今回紹介する本は

『恐竜の教科書 最新研究で読み解く進化の謎』

 

 

 書誌情報

出版社:創元社

ページ数: 239 p.

2019年2月20日発行

単行本(ハードカバー)

 

著者:ダレン・ナイシュ

サイエンスライター、技術編集者、古生物学者。主に白亜紀の恐竜と翼竜を研究しているが、四肢動物すべてに関心を持っている。(本書著者略歴より)

 著者:ポール・バレット

ロンドン自然史博物館の地球科学部門研究員。恐竜に関する科学論文を150件以上執筆しており、世界中を旅して、さまざまな驚異的な恐竜を研究している。(本書著者略歴より)

 監訳者:小林快次

北海道大学総合博物館准教授。獣脚類恐竜のオルニトミモサウルス類を中心に、恐竜の分類や生理・生態の研究をしている。(本書監訳者略歴より抜粋)

 監訳者:久保田克博

兵庫県人と自然の博物館研究員。小型獣脚類恐竜を中心に、恐竜の記載や系統関係について研究している。(本書監訳者略歴より抜粋)

 監訳者:千葉謙太郎

岡山理科大学生物地球学部助教。角竜類恐竜の分類と進化、および、骨の内部構造に基づいて古生物の生理・生態の研究している。 (本書監訳者略歴より抜粋)

 監訳者:田中康平

筑波大学生命環境科学研究科助教。恐竜の繁殖行動や子育ての研究を中心に、恐竜の進化や生態を研究している。 (本書監訳者略歴より抜粋)

訳者:吉田三知代

企業勤務ののち英日・日英の翻訳家として独立。訳書にマンロー『ホワット・イフ?』、フォーブス『ヤモリの指』、シュービン『あなたのなかの宇宙』、(以上早川書房)、クリース『世界でもっとも美しい10の物理方程式』(日経BP社)、ドラーニおよびカローガー『動物たちのすごいワザを物理で解く』(インターシフト)などがある。(本書訳者略歴より抜粋)

 

本書の目次 

第1章 歴史、起源、そして恐竜の世界

第2章 恐竜の系統樹

第3章 恐竜の解剖学

第4章 恐竜の生態と行動

第5章 鳥類の起源

第6章 大量絶滅とその後

資料

用語解説

参考文献

和英索引

英和索引

(本書目次より)

 

感想

暑さが本格化し、世間では 夏休みのシーズンになりました。

 

毎年この時期になると、全国各地で恐竜の展示が盛んになるイメージがあります。

 

たとえば

恐竜科学博 ララミディア大陸の恐竜物語

恐竜展2021

 

また恐竜の本も毎年たくさん刊行されているかと思いますが、今回はボリュームのあるハードカバーの1冊を紹介します。

 

本書は恐竜類の研究の歴史、その起源や当時の地球の様子に関する話から始まります(第1章)。

 

1840年代に恐竜類と名付けられた歴史から始まり、世界各国での発掘調査、1960年代に話題となる恐竜ルネッサンス(恐竜類がより活発な動物であったとする見方、温血説など)などが紹介されます。

 

また、当時の地球は今より温暖であり、一つの大きな大陸”超大陸パンゲア”が分裂するなど大陸の配置が移り変わってきたこと、そしてそうした環境下で恐竜類につながる系統がどのようなものだったか解説されています。

 

第2章は恐竜の系統についての解説。

 

恐竜好きの人にとっては一番楽しめる章ではないでしょうか。

  

恐竜と言えばおなじみのティラノサウルスの祖先系統の話題や、映画『ジュラシック・パーク3』にでてきた背中に穂のあるスピノサウルスなど、恐竜の分類を系統樹で表しながら、各グループの特徴を化石写真やイラストと合わせて解説が進みます。

 

個人的に興味を引いたのは恐竜類の大系統に関する仮説紹介のところ。

 

これまでの考えでは、竜盤類(肉食である獣脚類と大型で首の長い竜脚形類を含むグループ)と鳥盤類(トリケラトプスなど植物食の恐竜類を含む)の二大系統が主流でした。

 

しかし近年、獣脚類と鳥盤類がより近い系統とする説や、竜脚形類と鳥盤類が近縁になるとする説があることが紹介されており、現在進行形で議論がされているようです。

 

この章では各種の恐竜類の説明に加えて生態復元図のついた系統樹が示されているため、どの種類がほかのどの種類と近いのか、そしてどのような姿だったのかひと目でわかる点が工夫されているなと思いました。

 

また各種の恐竜の紹介のさい、解剖学的な説明のほかに、その恐竜に関する研究史や生態(生息域や食性、行動など)もあわせて書かれているので、読み物としても面白そうです。

 

自分の知っている、あるいは好きな恐竜から読んでみるのも良いかもしれません。

 

第3章から第5章では恐竜類の姿かたち、生態、生理、そして鳥類への進化が語られています。

 

本書の半分を占めるこれらの章の中で、ふだん博物館や映画・漫画などで目にする恐竜の生きざまが、いかにして研究されているか書かれています。

 

発見された化石自体の観察に基づく生態の復元(骨の形態比較による筋肉位置の推定、フンや胃の内容物化石からエサとなる食物の推定、色素の分析による体色の推定など)に加えて、 とくに印象的だったのがデジタル技術による研究が盛んなことです(第3、4章)。

 

恐竜の化石からCTや3Dデータを取得しデジタルで再構築することにより、骨の機能形態の解析、体重・筋肉量の推定、骨格の強度測定、走行・飛行能力の評価など、化石の肉眼観察だけでは分かりづらかった分野の研究が発展していることが分かります。

 

第5章では恐竜から鳥類への進化について説明が続きます。

 

最近では鳥類が一部の恐竜類から進化したことが、しばしば目にするようになったかと思います。

 

そうした説のもととなる、いわゆる羽毛恐竜の発見から話が始まり、鳥類に見られるさまざまな特徴(羽毛や羽根、歯の無いくちばし、大きな胸骨、叉骨、向かい合った脚の指etc)、さらには飛行行動の起源についても、その研究史が解説されています。

 

数多くの羽毛恐竜や初期鳥類の化石が見つかりつつあるものの、こうした特徴がいつ、どの進化段階で獲得されたのかは議論の余地があり、今後ますますこの分野の研究が注目されそうです。

 

最終章となる第6章では、恐竜の絶滅と鳥類について触れています。

 

よく言われている隕石衝突による白亜紀末期の大量絶滅の研究史や、この時期に起きていた大規模火山活動、そして最近の系統仮説に基づく鳥類たちの現在の姿を知ることができます。

 

本書を通してカラーの化石写真やイラストが掲載されているので、実物の化石のようすや、生きていた姿を知るには最適かと思いました。

 

内容はかなり詳しく、また専門性の高い説明かなという印象で、タイトルに教科書とある通り、大学生程度の講義のテキストに向いているのかなと思います。

 

たとえば、いくつかの分類階級(●●科、●●亜科など)も書かれているので、分類を勉強したい人にも役立ちそうです。

 

また本書では恐竜の種名だけでなく、専門用語(系統や、骨・筋肉に関する解剖学用語など)が和英併記で掲載されており、より詳しい事柄を知りたい人にとってはありがたい表記がされています。

 

恐竜の本というと子供向けの分かりやすい本が多いイメージでしたが、もっと恐竜のことが知りたい人、ここ数年の研究成果や専門的なことを学びたいという人にお勧めです。

 

恐竜の教科書: 最新研究で読み解く進化の謎

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