【本の感想 #12】ウンチ化石学入門
今回紹介する本は
『ウンチ化石学入門』
書誌情報
出版社:集英社インターナショナル
ページ数: 192 p.
2021年4月7日発行
新書
著者:泉賢太郎
古生物学者。千葉大学教育学部准教授。博士(理学)。1987年、東京都生まれ。2015年、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。
専門は生痕化石に記録された古生態の研究など。別名「ウンチ化石ハカセ」。(本書著者略歴より抜粋)
本書の目次
まえがき
第1章 生痕化石とは何か
第2章 ウンチ化石からわかること
第3章 ティラノサウルスと首長竜のウンチに挑む
第4章 ウンチ化石研究者が目指しているもの
第5章 生痕化石が地球の未来を語る?
第6章 地層ブラブラ:身近な楽しみとしての生痕学
あとがき
引用文献
(本書目次より)
感想
キャッチーなタイトルだったので購入。
本書は日本では珍しい化石生物のウンチ化石の研究者が、その研究を通して過去の生物の生態解明に取り組み、地球の未来の姿を語ります。
以前、生痕化石の本の感想をブログに書きましたが、その時は巣穴の化石がメインでしたが、今回はウンチの化石!
上述のブログでも触れましたが、生痕化石とは「太古の生物の足跡、這い痕、巣穴、はたまた糞(ウンチ)の化石など、太古の生物の行動の痕跡が地層中に保存されたもの(本書より)」です。
第1章ではそうした生痕化石の紹介と共に、その重要性が語られています。
生痕化石は過去の生物の行動の痕跡のため、その当時の古生物の行動や生態を復元することができるとのこと。
より大きなスケールの例としては、古生代カンブリア紀初期になると、海底に垂直に伸びる巣穴化石が増加することが知られ、それ以前と以後では当時の海底にすむ生物の生活様式が大きく変化したこと(これをカンブリア紀の農耕革命と表現されています)が分かるようです。
そんな生痕化石のひとつであるウンチ化石。
いったいそこからどんなことが分かるのでしょうか。
第2章ではさまざまなウンチ化石のエピソードから、どんなことが分かるのか語られています。
その中で意外だったのはウンチ化石がほかの化石の保存に一役買っているということ。
いうまでもなく、ウンチとは生き物がエサとなるほかの動植物を食べたカスですが、そうしたエサとなった生物がウンチによって周囲から”隔離”されることによって、結果的にウンチの中で保存の良い化石となるのだとか。
第3章ではティラノサウルスや首長竜といった人気の古生物のウンチ化石を取り上げています。
ティラノサウルスのものとされるウンチ化石の中には、エサとなった脊椎動物の骨のカケラや、場合によっては筋肉繊維も残っていたとのこと。
ティラノサウルスの当時の”食事事情”が分かるようです。
また、著者が現在取り組んでいる首長竜のウンチと思しき化石について触れています。
今後どんな見解が示されるのか楽しみなところです。
このようなウンチ化石を研究する著者は、ウンチ化石からさらにその”落とし主”の姿を追求していくようです(第4章)。
ウンチとその主のサイズの関係性や、ウンチ化石の由来(エサ)がどこから来たのか、ろ過食性海生生物の生痕化石とその周りの地層を化学分析によって推定しています。
単なるウンチ自体の観察だけでなく、さまざまなアプローチで古生物の生態を明らかにする様子が綴られています。
こうした、かなりマニアックな分野であるウンチ化石の研究が、長期的なスパン(地質学的なスケール)で見た時にどのような変遷が見られるのか、それがこれまでの環境変動とどう結びつくのか、著者は未来の地球環境を考えるうえでも役立つのではと語ります(第5章)。
最後の第6章では著者が実際に調査を行った国内のウンチ化石が見られるフィールドが案内されています。
イメージではすぐに分解されそうなウンチですが、それが化石として保存され、それを研究する国内の古生物学者がいたことを知れました。
現在でも海岸などに行けば底に棲む生物のウンチが見られるそうです。
いつも眺めるきれいな景色明けでなく、足元にあるウンチの見方も変わるかもしれません。
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