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【本の感想 #14】なぜ・どうして種の数は増えるのか ガラパゴスのダーウィンフィンチ

今回紹介する本は

『なぜ・どうして種の数は増えるのか』

 

 

 書誌情報

出版社:共立出版

ページ数: 223 p.

2017年1月30日発行

 

監訳者:巌佐 庸

理学博士。九州大学大学院理学研究院教授、九州大学高等研究院院長

専門:数理生物学(本書著者略歴より抜粋)

 

訳者:山口 諒

 修士(理学)。九州大学大学院システム生命科学府博士後期課程在学中、日本学術振興会特別研究員(DC1)

専門:数理生物学、進化生物学(本書著者略歴より抜粋)

 

本書の目次 

監訳者まえがき

はじめに

和名ー学名リスト

第1章 生物多様性ダーウィンフィンチ

第2章 起源と歴史

第3章 種分化と様式

第4章 島への移入と定着

第5章 自然淘汰、適応、そして進化

第6章 生態的相互作用

第7章 生殖隔離

第8章 交雑

第9章 種と種分化

第10章 ダーウィンフィンチ類の放散を再現する

第11章 適応放散の促進要因

第12章 適応放散生活史

第13章 ダーウィンフィンチ類の放散のようやく

日本語版へのあとがき

用語集

引用文献

索引

(本書目次より)

 

感想

 

進化の話題でよく例に出されるダーウィンの研究とフィンチ。

本書ではそのフィンチに関する生態と進化を追い続けた研究者による進化の実例がつづられています。

 

著者のグラント夫妻はガラパゴス諸島に生息するダーウィンフィンチの調査をなんと40年にわたって調査しており、その成果が「起源」「種分化」「淘汰」などのテーマごとに解説されています。

 

ダーウィンフィンチと言えば、ガラパゴス諸島のそれぞれの島ごとに異なる種がいて、食性によってくちばしの形が変化しているといった話をよく耳にします。

 

こうしたダーウィンフィンチの適応放散がいかにして起きてきたのか。

フィンチたちの生態をつぶさに、そして長期にわたって観察することで明らかにされています。

 

島環境という閉鎖的な状況であり、かつ周辺に別の近縁種がいることによってすみわけや移入といった隔離・移入が生じること、またまれに起こるエルニーニョ現象による気候と乾燥化の影響が自然淘汰となって、ダーウィンフィンチのくちばしの変化、さらには種分化に影響を及ぼしていることが知れました。

 

個人的に面白かったところは「さえずり」の学習の話。

 

交配相手を見定めるために「さえずり」を手掛かりのひとつにしているフィンチは、ひな鳥の時にオス親から学習するとのこと。

そこで覚えた「さえずり」を学習するわけですが、その段階で何らかのエラー(オス親の死、異種のさえずりを覚えるetc....)が生じてしまうようです。

こうしたエラーが他の集団との交流を生むきっかけになり得るのかと学びました。

 

進化の過程で遺伝子交雑が影響するのだろうなとイメージしてましたが、そのきっかけがどうやって生じるのか知る機会になりました。

 

全体の構成が論文に似ているところがあり、例えば各章ごとに”はじめに”と”まとめ”があり、また第13章が本書全体のまとめの役割をなしているので、これらの箇所を読むことで、全体を把握することできました。

 

調査結果が解説されているのですが、難しい数式や手法の説明をすることなく、結果を易しく説明している印象です。

 

適応や分化、自然淘汰や放散といった、生物の授業でも聞き馴染みのありそうなキーワードをもとに、ダーウィンフィンチを通してそれらの事象を具体的に学ぶことができ、大学の教養科目の教科書に良さそうな印象です。

分子生物学や系統学を学んでいるとより一層理解が進みそうです。

 

なぜ・どうして種の数は増えるのか: ガラパゴスのダーウィンフィンチ

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