自然史の本棚

自然史系の本の感想、昆虫観察、博物館めぐりのブログ

【本の感想 #4】標本バカ

今回紹介する本は

『標本バカ』

 

 

 

本書の内容

 本書は、哺乳類の研究者である著者が、博物館に収蔵されるさまざまな「標本」について語るコラム形式のお話です。月刊誌『ソトコト』(参考:ソトコト)の連載コラムを書籍用にまとめたもので、一部修正・加筆のうえ再編集されたものです。

 

書誌情報

出版社:ブックマン社

ページ数:336

2020年9月30日発行

ソフトカバー

著者:川田伸一郎

国立科学博物館動物研究部主幹。弘前大学大学院理学研究科生物学専攻修士課程修了。名古屋大学大学院生命農学研究科入学後、ロシアの科学アカデミーシベリア支部への留学を経て、農学博士号取得。2011年、博物館法施行60周年記念奨励賞受賞。(本書著者紹介より抜粋)

目次 

第1章 標本バカも楽じゃない

第2章 事件は現場で起きている

第3章 標本に学べ

第4章 標本バカの主張

第5章 偉大なる標本バカたち

                         (本書目次より)

 

感想

ふだん職場に向かうとき、あるいは山道を通っているとき、たまに動物の死体が落ちていることがあります。

 

しばらくするとそういう死体は無くなっており、「カラスや肉食動物が持って行ったのかな」などと思っていましたが、本書の著者である川田さんはそんな動物の死体をさばいて標本にするプロフェッショナル。

 

本書では動物の死体がさばかれ、博物館の標本になっていくようすが描かれています。

 

著者は専門がモグラとのことですが、大小問わずさまざまな種類の動物を扱っています。

 

調査で捕獲したモグラ、駆除されたクマ、動物園で死んだ生き物、浜に打ち上げられたクジラやウミガメ。

 

状況も場所も異なる条件下で、動物の死体情報は著者のもとへ届きます。

 

時間も場所もかまわず、忙しい年度末だろうとクリスマスだろうと駆けつける姿に「標本バカ」の名にふさわしい活躍ぶりがうかがえます。

 

個人的に好きなのはウミガメの死体回収に向かう際、その道中で100円ショップで道具を調達して向かうところ。

 

専門道具が無くてもこんな感じで間に合わせて取り組むのかと驚きました。

 

博物館で展示されているはく製や骨格などの標本たちはきれいに展示されていますが、そこに行きつくまで標本の数だけ裏エピソードがあるんだなと思わされます。

 

標本には採集地や採集年月日といった採集情報が不可欠なものであるが、それに付随するストーリーがあればなお魅力的なものとなる。

(本書 p. 305)

 

本書の中で上記のように著者はつづっており、本書はまさにそうした標本たちの魅力的なストーリーを語る場になっています。

 

また、博物館には展示されることなく、将来の研究に、または新たな展示に、その出番を待っている標本たちがいることも知ることができます。

 

無価値なものに価値を見いだす。博物館は常に未来を見据えている。

(本書 p.277)

 

著者は「無目的・無制限・無計画」をスローガンに掲げ(本書 p. 239)、標本収集に努めています。

こうした地道な調査と収集が、将来的に新たな発見を生むのだろうと思いました。

 

本書は博物館のお仕事を知るために参考になる1冊です。博物館の研究者はふだんどんなことをしてるのか、調査って何をやっているのかわかります。

またコラム形式なので、そこから読んでも良いし、少しづつ読み進めてみるのも良いかもしれません。

 

合わせて読みたい

 『キリン解剖記』

キリンの首の骨の謎に挑む若き解剖学者のお話。

『標本バカ』とリンクする部分があり、両方読むと一層楽しめます。