【本の感想 #8】アラン・オーストンの標本ラベル 幕末から明治、海を渡ったニッポンの動物たち
今回紹介する本は
『アラン・オーストンの標本ラベル 幕末から明治、海をを渡った日本の動物たち』
書誌情報
出版社:ブックマン社
ページ数:264
2020年11月30日発行
単行本(ソフトカバー)
著者:川田伸一郎
1973年岡山県生まれ。国立科学博物館動物研究部研究主幹。弘前大学大学院理学研究科生物学専攻修士課程修了。名古屋大学大学院生命農学研究科入学後、ロシアの科学アカデミー・シベリア支部への留学を経て、農学博士号取得。2011年、博物館法施行60周年記念奨励賞受賞。(本書著者紹介より抜粋)
目次
第1章 古い標本の向こうに見えてくるもの
第2章 動物学誕生前夜、残された動物たちの記録
第3章 日本の動物学の夜明け
第5章 オーストンの交流歴
第6章 100年前の横浜
第7章 オーストンを追って、100年を超える旅へ
(本書目次より)
感想
著者はモグラの研究者。
あるときアジアのモグラに関する調査のために、著者はイギリスの博物館を訪れる。
調査対象の標本を手に取って目にしたのは、日本語の書式の標本ラベル。
そして、まったく同じラベルを過去に日本の研究機関でも見たことがあったことを思い出す。
なぜ、イギリスと日本で同じ標本ラベルがあるのか?
しかもそのラベルは、なぜか鳥類の情報を記録する様式でできている。
この謎を解くべく調査を進めていくうちに、明治期に標本商として活躍した「アラン・オーストン」なる人物に辿り着く。。
以前、 著者の川田さんの著書『標本バカ』を読んだとき、本書のタイトルにもある「アラン・オーストン」に関するお話があり、それを覚えていたことから本書を購入。
『標本バカ』を博物館の標本が主人公とする話ならば、本書は標本ラベルと標本に関わる人間模様が中心のお話という印象だ。
本書の中で中心となるアラン・オーストンは明治期に日本にやってきた外国人。
いわゆるお雇い外国人をはじめ、諸外国から日本へ多くの外国人がやってきた時期であり、商業、学問ともに海外との交流が盛んとなる時代である。
調査の過程でわかってきたことは、動物学の歴史は標本の歴史であるということ。そして標本は人の所業であるということだ。つまり動物の名前が付けられたり、博物館のコレクションとして残されてきた経緯を理解するには、それにかかわった人物について理解する必要があるということである。(本書p. 41より)
著者の調査によればオーストンは標本商として活動しており、当時の日本や東アジアへ動物の調査を展開していたことが分かる。
得られた動物標本はロンドン自然史博物館やスミソニアン博物館など歴史ある博物館へと送られ、やがてそれらが新種発見に貢献することになった。
そんなやりとりの中で著者が見つけたラベルと標本の歴史が次第に明らかになっていく。
標本ラベルをきっかけに、100年以上前の日本の動物調査とその標本の取り引きの様子を調べていく様子は、まるで探偵の捜査のようだ。
博物館に収蔵されている標本たちはいずれも重要なものであり、ラベルの存在はそれらの学術的な価値をいっそう高め、保証してくれる役割を持つ。
どこの博物館においても未登録の資料がまだまだたくさんあり、その整理と管理が追いついていないといった話を聞いたことがある方も知るかもしれない。
昨今の情勢の中、今年もそうした数えきれない標本たちが整理され、その一つ一つにラベルが付けられていく。
それを行うのは学芸員かもしれないし、ボランティアの方かもしれないし、学生の方かもしれない。
一見すると大変な手間と時間のかかる地味に見える作業であるが、登録された標本たちを100年後の研究者が手に取って今の時代に思いを巡らせてくれると思えば、とてもロマンあふれる仕事ではないかと思う。
合わせて読みたい
『フィールドの生物学3 モグラ 見えないものへの探求心』
本書の著者である川田さんがどんな研究をしているのかを知れる一冊。