自然史の本棚

自然史系の本の感想、昆虫観察、博物館めぐりのブログ

【本の感想 #16】キリンのひづめ、ヒトの指 比べてわかる生き物の進化(NHK出版)

今回読んだ本は

『キリンのひづめ、ヒトの指 比べてわかる生き物の進化』

 

 

健康に暮らす人なら、ふだんどれだけ自分の体のことを気に掛けるだろうか?

 

運動のし過ぎで筋肉痛になった。

油物を食べて胃が持たれた。

デスクワークで肩が凝っている。。。

 

何か不調が起きたとき、自分の体の訴えを顧みるのが普通ではなかろうか。

ヒトの体はじつによくできている。それは他の動物も例外ではない。

本書は生物の解剖と比較によって生物のからだの構造を明らかにする「比較解剖学」でもってその進化を紹介する一冊だ。

 

肺、手足、首、皮膚、消化器官など日々の生活でも意識しそうなからだの器官から、草食動物にみられる角に関する解説もある。

 

同じ器官であっても動物によってそのかたちも仕組みもさまざまであることが解る。

本書を通して動物どうしのおなじ器官を比較することで、生物の長い進化の歴史の中でいかにしてこれらが変化し、各々の生活に合わせて働いているかが学べる。

 

著者はキリンの専門家。もちろん上記の器官に関するキリンの例も述べられているので、キリンの魅力も余すことなく語られている。

毎年わざわざ角を生え変えてしまうシカや、消化器官の働きのちがいからウシに比べて消化効率の悪いゾウなど、一見するとムダの多い感じもする生態にも著者は「効率的でなくても、その動物自身が生きてける世界でなんとかやっていけるのならば(中略)それでいいのだ(本書より引用)」と語る。

本書を読めば、複雑な働きと構造も、無駄に見える特徴も「進化ってすごい!(本書より引用)」と思えるのではないだろうか。

 

関連書籍

『キリン解剖記』著者が取り組んだキリンの首のしくみの謎を明らかにするまでの研究生活エッセイ

 

【本の感想 #14】なぜ・どうして種の数は増えるのか ガラパゴスのダーウィンフィンチ

今回紹介する本は

『なぜ・どうして種の数は増えるのか』

 

 

 書誌情報

出版社:共立出版

ページ数: 223 p.

2017年1月30日発行

 

監訳者:巌佐 庸

理学博士。九州大学大学院理学研究院教授、九州大学高等研究院院長

専門:数理生物学(本書著者略歴より抜粋)

 

訳者:山口 諒

 修士(理学)。九州大学大学院システム生命科学府博士後期課程在学中、日本学術振興会特別研究員(DC1)

専門:数理生物学、進化生物学(本書著者略歴より抜粋)

 

本書の目次 

監訳者まえがき

はじめに

和名ー学名リスト

第1章 生物多様性ダーウィンフィンチ

第2章 起源と歴史

第3章 種分化と様式

第4章 島への移入と定着

第5章 自然淘汰、適応、そして進化

第6章 生態的相互作用

第7章 生殖隔離

第8章 交雑

第9章 種と種分化

第10章 ダーウィンフィンチ類の放散を再現する

第11章 適応放散の促進要因

第12章 適応放散生活史

第13章 ダーウィンフィンチ類の放散のようやく

日本語版へのあとがき

用語集

引用文献

索引

(本書目次より)

 

感想

 

進化の話題でよく例に出されるダーウィンの研究とフィンチ。

本書ではそのフィンチに関する生態と進化を追い続けた研究者による進化の実例がつづられています。

 

著者のグラント夫妻はガラパゴス諸島に生息するダーウィンフィンチの調査をなんと40年にわたって調査しており、その成果が「起源」「種分化」「淘汰」などのテーマごとに解説されています。

 

ダーウィンフィンチと言えば、ガラパゴス諸島のそれぞれの島ごとに異なる種がいて、食性によってくちばしの形が変化しているといった話をよく耳にします。

 

こうしたダーウィンフィンチの適応放散がいかにして起きてきたのか。

フィンチたちの生態をつぶさに、そして長期にわたって観察することで明らかにされています。

 

島環境という閉鎖的な状況であり、かつ周辺に別の近縁種がいることによってすみわけや移入といった隔離・移入が生じること、またまれに起こるエルニーニョ現象による気候と乾燥化の影響が自然淘汰となって、ダーウィンフィンチのくちばしの変化、さらには種分化に影響を及ぼしていることが知れました。

 

個人的に面白かったところは「さえずり」の学習の話。

 

交配相手を見定めるために「さえずり」を手掛かりのひとつにしているフィンチは、ひな鳥の時にオス親から学習するとのこと。

そこで覚えた「さえずり」を学習するわけですが、その段階で何らかのエラー(オス親の死、異種のさえずりを覚えるetc....)が生じてしまうようです。

こうしたエラーが他の集団との交流を生むきっかけになり得るのかと学びました。

 

進化の過程で遺伝子交雑が影響するのだろうなとイメージしてましたが、そのきっかけがどうやって生じるのか知る機会になりました。

 

全体の構成が論文に似ているところがあり、例えば各章ごとに”はじめに”と”まとめ”があり、また第13章が本書全体のまとめの役割をなしているので、これらの箇所を読むことで、全体を把握することできました。

 

調査結果が解説されているのですが、難しい数式や手法の説明をすることなく、結果を易しく説明している印象です。

 

適応や分化、自然淘汰や放散といった、生物の授業でも聞き馴染みのありそうなキーワードをもとに、ダーウィンフィンチを通してそれらの事象を具体的に学ぶことができ、大学の教養科目の教科書に良さそうな印象です。

分子生物学や系統学を学んでいるとより一層理解が進みそうです。

 

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【本の感想 #13】たくましくて美しい糞虫図鑑

今回紹介する本は

『たくましくて美しい糞虫図鑑』

 

 

 書誌情報

出版社:創元社

ページ数: 144 p.

2021年7月20日発行

 

著者:中村圭一

1964年大阪府生まれ奈良県育ち。NPO法人自然体験活動推進協議会 自然体験活動指導者(NFAL)資格保有NPO法人シニア自然大学校認定 自然観察アドバイザー。中小企業診断士。(本書著者略歴より抜粋)

  

本書の目次 

はじめに

第1章 糞虫ってどんな虫?

第2章 たくましくて美しい糞虫図鑑

第3章 糞虫館とフィールドワーク

あとがき

(本書目次より)

 

感想

 

本書は、奈良市にある「ならまち糞虫館」館長が執筆した糞虫の本。

奈良公園で見られる種類を中心に、糞虫類の魅力と生態が図鑑形式で語られています。

 

奈良公園は日本国内でも有数の糞虫がいる場所。

本書によれば、日本の糞虫である約160種のうち約40種も奈良公園にいるのだとか。

 

糞虫とはどんな虫?どんな姿をしてどこに住んでいるの?なぜ糞を食べるのか?

そんな糞虫に関する疑問がQ&Aで解説されています(第1章)。

 

第2章は日本の糞虫を中心とした糞虫図鑑の章。

掲載されている糞虫は実際に著者が奈良公園で撮影した生態の様子や、長年収集したコレクションで構成されています。

フンに群がる姿やフンに潜る姿は、その名の通り動物のフンと生きるそのままのイメージを映し出しています。

一方できれいな光沢を放つ種類を見ると、こんな虫がフンに群がるのかと意外性をもたらしてくれるのではないでしょうか。

 

第3章では著者と糞虫の出会いから「ならまち糞虫館」を開館するまでのお話がつづられています。

「好き」からはじまる博物館開館までの行動力がすごいなと思いました。

さらに季節ごとの奈良公園おすすめ糞虫観察ルートマップが紹介されています。

そして著者と同様、糞虫に魅せられた谷島さんという方との対談があり、お互いの糞虫談議に花を咲かせています。

 

筆者は奈良が好きで、以前、ならまち糞虫館にも伺ったことがあります。

(下記ブログ参照)

 

shizen-hondana.hatenablog.com

 

 

展示の感じは博物館然とした感じではなく、アートギャラリーのような内装で新鮮です。

まじかで展示を見ることができ、その時は生きた糞虫も飼育されていました。

 

奈良公園に出かけた際は、お寺や鹿を見て回るついでに足元のフンを見てみるのも良いかもしれません。

 

 

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【本の感想 #12】ウンチ化石学入門

今回紹介する本は

『ウンチ化石学入門』

 

 

 書誌情報

出版社:集英社インターナショナル

ページ数: 192 p.

2021年4月7日発行

新書

 

著者:泉賢太郎

生物学者千葉大学教育学部准教授。博士(理学)。1987年、東京都生まれ。2015年、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。
専門は生痕化石に記録された古生態の研究など。別名「ウンチ化石ハカセ」。(本書著者略歴より抜粋)

  

本書の目次 

まえがき

第1章 生痕化石とは何か

第2章 ウンチ化石からわかること

第3章 ティラノサウルスと首長竜のウンチに挑む

第4章 ウンチ化石研究者が目指しているもの

第5章 生痕化石が地球の未来を語る?

第6章 地層ブラブラ:身近な楽しみとしての生痕学

あとがき

引用文献

(本書目次より)

 

感想

キャッチーなタイトルだったので購入。

 

本書は日本では珍しい化石生物のウンチ化石の研究者が、その研究を通して過去の生物の生態解明に取り組み、地球の未来の姿を語ります。

 

以前、生痕化石の本の感想をブログに書きましたが、その時は巣穴の化石がメインでしたが、今回はウンチの化石!

 

shizen-hondana.hatenablog.com

 

上述のブログでも触れましたが、生痕化石とは「太古の生物の足跡、這い痕、巣穴、はたまた糞(ウンチ)の化石など、太古の生物の行動の痕跡が地層中に保存されたもの(本書より)」です。

 

第1章ではそうした生痕化石の紹介と共に、その重要性が語られています。

生痕化石は過去の生物の行動の痕跡のため、その当時の古生物の行動や生態を復元することができるとのこと。

より大きなスケールの例としては、古生代カンブリア紀初期になると、海底に垂直に伸びる巣穴化石が増加することが知られ、それ以前と以後では当時の海底にすむ生物の生活様式が大きく変化したこと(これをカンブリア紀の農耕革命と表現されています)が分かるようです。

 

そんな生痕化石のひとつであるウンチ化石。

いったいそこからどんなことが分かるのでしょうか。

第2章ではさまざまなウンチ化石のエピソードから、どんなことが分かるのか語られています。

その中で意外だったのはウンチ化石がほかの化石の保存に一役買っているということ。

いうまでもなく、ウンチとは生き物がエサとなるほかの動植物を食べたカスですが、そうしたエサとなった生物がウンチによって周囲から”隔離”されることによって、結果的にウンチの中で保存の良い化石となるのだとか。

 

第3章ではティラノサウルスや首長竜といった人気の古生物のウンチ化石を取り上げています。

ティラノサウルスのものとされるウンチ化石の中には、エサとなった脊椎動物の骨のカケラや、場合によっては筋肉繊維も残っていたとのこと。

ティラノサウルスの当時の”食事事情”が分かるようです。

また、著者が現在取り組んでいる首長竜のウンチと思しき化石について触れています。

今後どんな見解が示されるのか楽しみなところです。

 

このようなウンチ化石を研究する著者は、ウンチ化石からさらにその”落とし主”の姿を追求していくようです(第4章)。

ウンチとその主のサイズの関係性や、ウンチ化石の由来(エサ)がどこから来たのか、ろ過食性海生生物の生痕化石とその周りの地層を化学分析によって推定しています。

単なるウンチ自体の観察だけでなく、さまざまなアプローチで古生物の生態を明らかにする様子が綴られています。

 

こうした、かなりマニアックな分野であるウンチ化石の研究が、長期的なスパン(地質学的なスケール)で見た時にどのような変遷が見られるのか、それがこれまでの環境変動とどう結びつくのか、著者は未来の地球環境を考えるうえでも役立つのではと語ります(第5章)。

最後の第6章では著者が実際に調査を行った国内のウンチ化石が見られるフィールドが案内されています。

 

イメージではすぐに分解されそうなウンチですが、それが化石として保存され、それを研究する国内の古生物学者がいたことを知れました。

 

現在でも海岸などに行けば底に棲む生物のウンチが見られるそうです。

いつも眺めるきれいな景色明けでなく、足元にあるウンチの見方も変わるかもしれません。

 

 

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【本の感想 #11】恐竜の教科書 最新研究で読み解く進化の謎

今回紹介する本は

『恐竜の教科書 最新研究で読み解く進化の謎』

 

 

 書誌情報

出版社:創元社

ページ数: 239 p.

2019年2月20日発行

単行本(ハードカバー)

 

著者:ダレン・ナイシュ

サイエンスライター、技術編集者、古生物学者。主に白亜紀の恐竜と翼竜を研究しているが、四肢動物すべてに関心を持っている。(本書著者略歴より)

 著者:ポール・バレット

ロンドン自然史博物館の地球科学部門研究員。恐竜に関する科学論文を150件以上執筆しており、世界中を旅して、さまざまな驚異的な恐竜を研究している。(本書著者略歴より)

 監訳者:小林快次

北海道大学総合博物館准教授。獣脚類恐竜のオルニトミモサウルス類を中心に、恐竜の分類や生理・生態の研究をしている。(本書監訳者略歴より抜粋)

 監訳者:久保田克博

兵庫県人と自然の博物館研究員。小型獣脚類恐竜を中心に、恐竜の記載や系統関係について研究している。(本書監訳者略歴より抜粋)

 監訳者:千葉謙太郎

岡山理科大学生物地球学部助教。角竜類恐竜の分類と進化、および、骨の内部構造に基づいて古生物の生理・生態の研究している。 (本書監訳者略歴より抜粋)

 監訳者:田中康平

筑波大学生命環境科学研究科助教。恐竜の繁殖行動や子育ての研究を中心に、恐竜の進化や生態を研究している。 (本書監訳者略歴より抜粋)

訳者:吉田三知代

企業勤務ののち英日・日英の翻訳家として独立。訳書にマンロー『ホワット・イフ?』、フォーブス『ヤモリの指』、シュービン『あなたのなかの宇宙』、(以上早川書房)、クリース『世界でもっとも美しい10の物理方程式』(日経BP社)、ドラーニおよびカローガー『動物たちのすごいワザを物理で解く』(インターシフト)などがある。(本書訳者略歴より抜粋)

 

本書の目次 

第1章 歴史、起源、そして恐竜の世界

第2章 恐竜の系統樹

第3章 恐竜の解剖学

第4章 恐竜の生態と行動

第5章 鳥類の起源

第6章 大量絶滅とその後

資料

用語解説

参考文献

和英索引

英和索引

(本書目次より)

 

感想

暑さが本格化し、世間では 夏休みのシーズンになりました。

 

毎年この時期になると、全国各地で恐竜の展示が盛んになるイメージがあります。

 

たとえば

恐竜科学博 ララミディア大陸の恐竜物語

恐竜展2021

 

また恐竜の本も毎年たくさん刊行されているかと思いますが、今回はボリュームのあるハードカバーの1冊を紹介します。

 

本書は恐竜類の研究の歴史、その起源や当時の地球の様子に関する話から始まります(第1章)。

 

1840年代に恐竜類と名付けられた歴史から始まり、世界各国での発掘調査、1960年代に話題となる恐竜ルネッサンス(恐竜類がより活発な動物であったとする見方、温血説など)などが紹介されます。

 

また、当時の地球は今より温暖であり、一つの大きな大陸”超大陸パンゲア”が分裂するなど大陸の配置が移り変わってきたこと、そしてそうした環境下で恐竜類につながる系統がどのようなものだったか解説されています。

 

第2章は恐竜の系統についての解説。

 

恐竜好きの人にとっては一番楽しめる章ではないでしょうか。

  

恐竜と言えばおなじみのティラノサウルスの祖先系統の話題や、映画『ジュラシック・パーク3』にでてきた背中に穂のあるスピノサウルスなど、恐竜の分類を系統樹で表しながら、各グループの特徴を化石写真やイラストと合わせて解説が進みます。

 

個人的に興味を引いたのは恐竜類の大系統に関する仮説紹介のところ。

 

これまでの考えでは、竜盤類(肉食である獣脚類と大型で首の長い竜脚形類を含むグループ)と鳥盤類(トリケラトプスなど植物食の恐竜類を含む)の二大系統が主流でした。

 

しかし近年、獣脚類と鳥盤類がより近い系統とする説や、竜脚形類と鳥盤類が近縁になるとする説があることが紹介されており、現在進行形で議論がされているようです。

 

この章では各種の恐竜類の説明に加えて生態復元図のついた系統樹が示されているため、どの種類がほかのどの種類と近いのか、そしてどのような姿だったのかひと目でわかる点が工夫されているなと思いました。

 

また各種の恐竜の紹介のさい、解剖学的な説明のほかに、その恐竜に関する研究史や生態(生息域や食性、行動など)もあわせて書かれているので、読み物としても面白そうです。

 

自分の知っている、あるいは好きな恐竜から読んでみるのも良いかもしれません。

 

第3章から第5章では恐竜類の姿かたち、生態、生理、そして鳥類への進化が語られています。

 

本書の半分を占めるこれらの章の中で、ふだん博物館や映画・漫画などで目にする恐竜の生きざまが、いかにして研究されているか書かれています。

 

発見された化石自体の観察に基づく生態の復元(骨の形態比較による筋肉位置の推定、フンや胃の内容物化石からエサとなる食物の推定、色素の分析による体色の推定など)に加えて、 とくに印象的だったのがデジタル技術による研究が盛んなことです(第3、4章)。

 

恐竜の化石からCTや3Dデータを取得しデジタルで再構築することにより、骨の機能形態の解析、体重・筋肉量の推定、骨格の強度測定、走行・飛行能力の評価など、化石の肉眼観察だけでは分かりづらかった分野の研究が発展していることが分かります。

 

第5章では恐竜から鳥類への進化について説明が続きます。

 

最近では鳥類が一部の恐竜類から進化したことが、しばしば目にするようになったかと思います。

 

そうした説のもととなる、いわゆる羽毛恐竜の発見から話が始まり、鳥類に見られるさまざまな特徴(羽毛や羽根、歯の無いくちばし、大きな胸骨、叉骨、向かい合った脚の指etc)、さらには飛行行動の起源についても、その研究史が解説されています。

 

数多くの羽毛恐竜や初期鳥類の化石が見つかりつつあるものの、こうした特徴がいつ、どの進化段階で獲得されたのかは議論の余地があり、今後ますますこの分野の研究が注目されそうです。

 

最終章となる第6章では、恐竜の絶滅と鳥類について触れています。

 

よく言われている隕石衝突による白亜紀末期の大量絶滅の研究史や、この時期に起きていた大規模火山活動、そして最近の系統仮説に基づく鳥類たちの現在の姿を知ることができます。

 

本書を通してカラーの化石写真やイラストが掲載されているので、実物の化石のようすや、生きていた姿を知るには最適かと思いました。

 

内容はかなり詳しく、また専門性の高い説明かなという印象で、タイトルに教科書とある通り、大学生程度の講義のテキストに向いているのかなと思います。

 

たとえば、いくつかの分類階級(●●科、●●亜科など)も書かれているので、分類を勉強したい人にも役立ちそうです。

 

また本書では恐竜の種名だけでなく、専門用語(系統や、骨・筋肉に関する解剖学用語など)が和英併記で掲載されており、より詳しい事柄を知りたい人にとってはありがたい表記がされています。

 

恐竜の本というと子供向けの分かりやすい本が多いイメージでしたが、もっと恐竜のことが知りたい人、ここ数年の研究成果や専門的なことを学びたいという人にお勧めです。

 

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【本の感想 #10】ネイティブが教える日本人研究者のための論文の書き方・アクセプト術

今回紹介する本は

『ネイティブが教える日本人研究者のための論文の書き方・アクセプト術』

  

 

書誌情報

出版社:講談社

ページ数: 493 p.

2019年12月19日発行

単行本(ソフトカバー)

著者:エイドリアン・ウォールウォーク

1984年から科学論文の編集・校正および外国語としての英語教育に携わる。2000年からは博士課程の留学生に英語で科学論文を書いて投稿するテクニックを教えている。30冊を超える著者がある。(本書著者紹介より抜粋)

 

訳者:前平謙二

医学論文翻訳家。実用英語技能検定1級、JTF(日本翻訳同盟)ほんやく検定1級(医学・薬学、日→英)。(本書著者紹介より抜粋)

 

訳者:笠川 梢

医薬翻訳家。実用英語技能検定1級、JTF(日本翻訳同盟)ほんやく検定1級(医学・薬学、英→日・日→英)。留学、社内翻訳を経て、2005年独立。治験関連文書や論文などさまざまな医薬文書の英訳・和訳を手掛がける。(本書著者紹介より抜粋)

本書の目次 

第1部 英文ライティングのテクニック

 第1部 論文執筆の計画と準備

 第2章 センテンスの構造:語順

 第3章 パラグラフの構成

 第4章 長いセンテンスを分割するテクニック

 第5章 簡潔で無駄のないセンテンスの作り方

 第6章 あいまいな言葉、表現、繰り返しを避ける

 第7章 [Who+Did+What]の構造を明確にする

 第8章 研究成果を強調するテクニック

 第9章 研究の限界の限界の書き方のテクニック

 第10章 他人の研究を建設的に批評する方法

 第11章 プレイジャリズム剽窃)とパラフレージング(置き換え)

第2部 論文構成のテクニック

 第12章 論文タイトルのつけ方

 第13章 要旨(Abstract)の書き方

 第14章 序論(Introdaction)の書き方

 第15章 文献レビューの書き方

 第16章 方法(Method)の書き方

 第17章 結果(Result)の書き方

 第18章 考察(Discussion)の書き方

 第19章 結論(Conclusions)の書き方

 第20章 投稿前の最終チェック

 第21章 ネイティブが教える論文英語表現

(本書目次より)

 

感想

「論文執筆」の本というと、さまざまな解説書が出版されていますが、本屋で分厚い本書が目に留まり、手に取ってみました。

 

本書は非ネイティブに向けた論文執筆の計画から執筆手順、文章の作成術、そして投稿まで、執筆活動のテクニックを解説しています。

 

本書の構成は大きく2部に分かれています。

 

第1部は「英文ライティングのテクニック」。

 

論文の計画と準備にはじまり、論文にふさわしい具体的な文章表現について解説しています。

 

論文執筆の解説書では、センテンスの並びやパラグラフ(段落)の書き方を述べる場合が多いかと思いますが、本書ではより簡潔な表現をめざすべく、単語単位の解説(単語同士の順番、冠詞の有無や使いどころ、控えたほうが良い単語)が多く、かなり細かい部分まで触れている印象です。

 

第2部は「論文構成のテクニック」。

 

ここでは第1部よりも大きな枠組み(序論、結果、考察など)に対する執筆方法を解説しています。

 

論文の基本構成は、おおむねタイトル、序論、方法、結果、考察、まとめの順であるかと思います。

 

本書ではこれら各セクションごとに解説しており、より良い内容に向けて説明されています。

 

個人的に気になったのは「序論と要旨の違い」、「考察の締めくくり方」、「先行・類似研究の落とし穴をどのように指摘するのか」、「要旨と結論の違い」など。

 

第2部は各章で共通して「構成」、「書き出し方」、「用いる時制」、「センテンスの長さ」が解説されており、実際に論文を書く上で気になったり迷ったりしそうなポイントに触れてます。

 

第1部、第2部ともにその構成は「論文ファクトイド」「ウォームアップ」、「問題の解決策」からなっています。

 

まず、「論文ファクトイド」は各章(各節)に関連する科学エピソードや名言などが紹介されており、解説の導入または息抜きのパートかと思います。

 

次の「ウォームアップ」では読者に対して問いかけがあり、その章(節)に関わる問題が出されています。

 

本書でも述べていましたが、こうした問題を使うことで、科学英語や論文執筆などを教える先生がテキストとして扱うのにも向いていそうかなと思いました。

 

そして「問題の解決策」では具体的な執筆術を解説しています。

 

解説で特徴的なのは、どの節でも文章や段落の「良い例」「悪い例」を併記しており、修正箇所とその案を示していて、こうした比較を考えることでより良い文章が身につきそうです。

 

また論文に使える英語表現だけで一章まるまる使われているのがすごいなと思いました。

 

全体的にかなりのボリュームがあるため、すでに論文執筆を始めている人が気になる個所を読んで活用することをオススメします。

 

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【本の感想 #9】学名の秘密 生き物はどのように名付けられるか

 

今回紹介する本は

『学名の秘密 生き物はどのように名付けられるか』

  

 

書誌情報

出版社:原書房

ページ数: 284

2021年1月30日発行

単行本(ハードカバー)

著者:スティーブン・B・ハード

カナダのニュー・ブラウンズウィック大学生物学教授。現在の主な研究テーマは植物と昆虫の関係性と、あらたな生物多様性の進化。2016年には科学者に明快な書き方を伝授するThe Scientist's Guide to Writing: How to Write Easily and Effectively Throughout Your Scientific Carrerを出版。(本書著者紹介より)

 訳者:上京 恵

英米文学翻訳家。2004年より書籍翻訳に携わり、小説、ノンフィクションなど訳書多数。訳書に『最期の言葉の村へ』、『インド神話物語 ラーマーヤナ』(原書房)ほか。

目次 

はじめに

序  章 キツネザルの名前

第1章 なぜ名前が必要なのか

第2章 学名のつけ方

第3章 レンギョウモクレン、名前に含まれた名前

第4章 ゲイリー・ラーソンのシラミ

第5章 マリア・シビラ・メーリアンと、博物学の変遷

第6章 デヴィッド・ボウイのクモ、ビヨンセのアブ、フランク・ザッパのクラゲ

第7章 スプリンギアー忘れられる運命だった男から命名されたカタツムリ

第8章 悪人の名前

第9章 リチャード・スプルースと苔類への愛

第10章 自己愛あふれる名前

第11章 不適切な命名? ーロベルト・フォン・ベーリングのゴリラとダイアン・フォッシーのメガネザル

第12章 賛辞ではないもの ー屈辱的命名の誘惑

第13章 チャールズ・ダーウィンの入り組んだ土手

第14章 ラテン語に込められた愛

第15章 見えない先住民

第16章 ハリー・ポッターと種の名前

第17章 マージョリー・コートニー =ラティマーと、時の深淵から現れた魚

第18章 名前売ります

第19章 メイベル・アレクサンダーの名を負う昆虫

エピローグ マダム・ベルテのネズミキツネザル

(本書目次より)

 

感想

 恐竜の新種の足跡化石の学名に、「ドラえもん」にでてくる「のび太」の名前が付いたというニュースを最近見ました。→「のび太」の名前を持つ恐竜の足跡化石、科博がレプリカを公開 - ITmedia NEWS

 論文はこちら↓

journalofpalaeogeography.springeropen.com

 

なんでも命名した研究者の方が『ドラえもん』のファンだったからだとか。

 

学名とは世界共通で使われる生物の名前のことで、ラテン語の文法・表記に従って命名されます(参照:学名

 

学名は、言わば苗字と名前のように属名そのあとに続く種小名の2語から成り立っていて、生物の見た目の特徴や生息地、神話、言葉遊び、そして人物に由来します。

 

とくに人物名を種名の由来とすることを「献名」といいます。

 

今回紹介する本『学名の秘密』では、そんな学名の献名にまつわるエピソードが集録されています。

 

献名の由来としていちばん思いつくのは、新種の生物を発見した人、あるいはその生物に関して多大な貢献をした人でしょうか。

 

たとえば第5章にでてくるマリア・シビラ・メーリアンは、とくにチョウなど昆虫について生態的アプローチをもって研究した博物学者・画家であり、昆虫のみならずトカゲや植物にも献名されたことが紹介されています。

 

また、第9章では植物学者のリチャード・スプルースが薬用植物や熱帯植物の調査で南米奥地まで過酷なフィールドワークを行ったことが紹介され、熱帯植物や経済的植物に彼の名がついたことが述べられています。

さらには彼自身が情熱を注いだ研究対象である苔類にも献名されました。

 

このほか、第6章では有名人の名前を献名する例に触れており、ビヨンセデヴィッド・ボウイ、日本人だと野球のイチローさんも登場してきます。

 

本章ではこうした有名人の献名について、「生物学に関係ない」、「命名を軽視している」といった意見があることにも触れています。

 

似たような話題として、命名権をオークションにかけられた例もあるようです(第18章)。

 

これに対して著者は、分類学等の基礎研究の予算獲得や維持の困難さを挙げ、分類学への注目度を高める必要性を指摘しています。

 

たしかに、恐竜や大型動物、なじみのある哺乳類の新種であらば話題になりやすそうですが、あまり知られていない昆虫や植物であればどうだろうかと考えさせられました。

 

さきほどの「のび太」の例のように、架空のキャラクターに対する献名も出てきます。

 

本書では「ハリーポッター」関連の登場人物であるルシウスマルフォイにあやかったLucsius malfoyi (つづりは違うものの、属名がルシウスで一緒だったことによる)、あるいは「ハリーポッター」シリーズ1作目から登場する組み分け帽子に似た姿をしたクモには、作中の寮名のひとつである「グリフィンドール」を献名しています。

 

 

これまで学名の献名の由来と聞くと、発見した人や関係者の名前にちなんでつけられるのかなと想像していました。

 

しかし、本書を通して、献名にはそれを名付けた命名者のアイデアと感謝、思い入れなど様々な理由が潜んでいることがわかります。

 

また本書で紹介される献名された生物は、いずれも馴染みの薄いものが多い印象です。

 

本書の訳者が述べていますが、こうした献名とそれにまつわるエピソードを通して、新種の発見の裏で活躍した人、さらにはあまり知られていない種類の生物たちに目を向ける機会とたかったのかなと想像します。

 

恥ずべき行為と英烏有的行為。無名と有名。憎悪と愛。喪失と希望。ラテン語名には、それらすべてが含まれている。本書 エピローグ p. 259 より)

 

 

学名の秘密 生き物はどのように名付けられるか

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